2014年10月17日金曜日

営業秘密であることの「否認」とは

報道によれば、ベネッセの顧客情報流出事件で起訴された元SEが、14日の初公判で、流出させた情報が「営業秘密」であることについて、「否認」したとのことです。

起訴された罪状は、「不正競争防止法」違反です。

具体的には、2条1項4号の、

窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段により営業秘密を取得する行為(以下「不正取得行為」という。)又は不正取得行為により取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為(秘密を保持しつつ特定の者に示すことを含む。以下同じ。)

に該当する行為を行った、というものです。

 被告人は、個人情報を取得し、業者に売却したことは認めているのですが、持ち出した個人情報が、不正競争防止法条の「営業秘密」には該当しない、と主張しているわけです。

「営業秘密」について、2条6項には、以下のように規定されています。

 この法律において「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。

前回(7月)にも書いた通り、情報が「営業秘密」に当たるかどうかについての判断基準は、以下の3要件を満たすかどうか、とされています。

1. 秘密として管理されていること(秘密管理性)
2.事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であること(有用性)
3.公然と知られていないこと(非公知性)

7月の段階では、報道から3要件は満たされているのではないか、と考えましたが、もう一度検討してみましょう。

今回持ち出された情報は、買い取って利用した企業があったわけですから、2.の有用性は、否定できないでしょう。

3.に該当しない、として否認するためには、 被告人が持ち出す前に、同じ情報が既に公然と知られていたことが必要です。

「公然知られた」というのは、世の中の人が皆知っていることは必要でありません。
秘密保持義務がない第三者に知られていれば十分です。

 被告人が持ち出す以前に、同じ情報を誰かが持ち出して、売却などをしたことが証明できればいいわけですが、実際は、彼は相当量の情報を持ち出していますから、そのすべてが「公知」であったことを証明することは困難だと思います。

すると、1.の秘密管理性が問題となるのではないでしょうか。

実は、きちんと「秘密管理」することは、簡単ではありません。

守秘義務を定めた勤務規則等がある。
資料に「秘密」の表示が付される。
資料が保管されている部署に、入室制限、記帳義務などがある。
資料の複写・持ち出しが制限されている。
電子情報については、アクセス制限がある。
電子情報にアクセスする際に、パスワードが設定されている。

というように、多様な要件を満たさなければなりません。

たぶん、被告は、これらが不十分だったので、「営業秘密」の要件を満たしていない、従って不正競争防止法には違反していない、と主張するつもりではないでしょうか。

皆さんの会社でも、十分な秘密管理がなされているか、もう一度確認してみてください。

朝陽特許事務所所長 弁理士 砂川惠一  1040052 東京都中央区築地2-15-15 セントラル東銀座703  Tel:03-3278-8405 Fax:03-6278-8406 e-mail:info@choyo-pat.jp









2014年7月15日火曜日

営業秘密について

(2014年7月13日朝日新聞デジタルより)

ベネッセの顧客情報の大量流出事件で、警視庁は不正競争防止法違反の容疑で近く強制捜査に入ります。

営業秘密を不正取得し、それを開示したことが対象となりますが、「不正の利益を得る目的」等を有していたことが必要です。

データを持ち出したとみられるSEが、「お金がほしかったから」と供述しているようなので、この点はクリアできるでしょうが、「営業秘密」であったかどうか、も立証しなければなりません。

裁判例によると、その情報が「営業秘密」であると認められる要件は、以下の3点です。

①秘密管理性 
 ㊙の判が捺され、鍵のかかるロッカーにしまわれて誰が閲覧したか記録されていたり、データベースへのアクセス制限がされてアクセスログが残っているなど、秘密であることがわかり、勝手に持ち出すことができないように管理されていなければなりません。
 会議でコピーを配って、「これは外部に出すなよ」と言った、という程度では、認められない可能性があります。

②有用性
 その情報が、重要な技術情報であったり、他社が持っていない顧客リストであったりするなど、実際に役に立つものでなければなりません。
 秘密に管理されていても、その内容が陳腐になった技術や、古くなって役に立たない名簿等であれば、認められない可能性があります。

③非公知性
 実際に秘密状態であることも必要です。
 上記2要件を満たしていても、秘密管理される前に、不特定多数の第三者の目に触れていたものであれば、認められません。

報道によれば、上記3要件は満たされていたのではないかと思われます。

ちなみに、個人への罰則は、10年以下の懲役若しくは1,000万円以下の罰金、又はこれらの併科(両方とも適用すること)です。

ビッグデータの活用の機運が盛り上がってからかなり経ちますが、流出させた人間を罰しても、失った信用は戻りません。
個人を相手に損害賠償を請求できたとしても、十分な回収はまず不可能です。


今回の事件の容疑者のSEも、子会社の外注先の派遣社員ですね。
信用を守るためには、人件費コストをきちんとかけることも必要なのではないでしょうか。

2014年6月18日水曜日

新聞記事の間違いと政策への疑問

今朝の朝日新聞の記事で、「社員の特許『会社のもの』」というものがありました。

まず、記事の問題です。

「政府は、社員が仕事で発明した特許をすべて『社員のもの』とするいまの制度を改め、条件付きで『会社のもの』と認める方針を固めた。」

現行の制度とは、仕事上行った発明(職務発明)であっても、「特許を受ける権利」は最初は発明をした社員のものである」というものです。

「特許を受ける権利」とは、その発明について「特許出願をすることができる権利」のことで、譲渡することができます。

企業は、発明が完成すると、社内規則や契約に基づき、発明をした社員等から、「特許を受ける権利」の譲渡を受け、特許出願をするのが一般的です。

出願書類の作成や手数料の支払いなどは、普通は発明をした社員のやることではありません。

従って、「仕事で発明した特許」が「すべて『社員のもの』」になどなっていません。

たしかに一般人にはわかりにくいかもしれませんが、だからといって、実態と大きく異なるような単純化をしていいということにはなりません。

思考の放棄=考える力の弱体化につながります。


次に、以下の政府方針です(報道が正しいとして論じます)。

「社員に十分な報償金を支払う仕組みがある企業に限って認める方向」 だそうですが、先日の「残業代ゼロ法案と同様、産業界からの要請とすれ違っています。

そもそも、新製品開発を業務として給与を支給されている人間が、発明が特許化されるごとに別途報償を受けることは、本当に正しいのでしょうか。
経理担当の社員が、きちんと決算をするたびにボーナスが出るとしたら、違和感を感じませんか。

そもそも、青色発光ダイオードやテプラなど、後に職務発明の対価を求める訴訟で、企業側が一定の金額を払わされているので、産業界は、いっそ初めから発明は企業のものにしてほしい、と言い出し、当然インセンティブも抑制したいと考えているはずです。

開発に当たり、設備も、材料も、共同研究者や補助者も、すべて会社が経費を負担しているのに、そして、開発業務のために給与を支払っていて、さらに、製品を売って利益を上げるためには、輸送・販売ルート、広告宣伝、材料の仕入れ、製品の在庫など、企業がリスクを負っていのに、何で成果が上がるとさらに報奨金を支払わねばならないのか、というのが企業の本音です。

なのに、 「十分な報償金を支払う仕組み」を求められるということは、企業側の要求とはずれています。
要するに、摩擦を増やす割りには、大した効果が上がらないのではないか、と思っているのです。

末端の多数の労働者の残業も削りたい産業界の要請に対し、「年収一千万円以上」を対象とする、という政策がずれているのと似ています。

誤解を避けるために付言しますが、「産業界の要請」と一致する政策がいい政策だ、と言っているわけではありません。
それなりの摩擦が生じるなら、それに見合った、或いはそれ以上の効果が上がらなければ、変更する意味がない、と言っているのです、念のため。

それにしても、金融政策はインフレ誘導なのに、消費税、TPP、残業代ゼロ、外国人労働者導入などのデフレ政策を次々と打ち出されると、まるでサイドブレーキを引いたままアクセルを踏んでいるように思えてしまいます。

ところで、発明は最初は社員のものですが、著作権は初めから会社のものとなります。
例えば新聞社員の場合、署名原稿であるか否かは関係ありません。

発明の場合は、発明者の名誉は、少なくとも担保されるようにしてほしいと思います。

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